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【入院中が絶好のチャンス!】 誰でも書ける自伝の書き方

2016年に発売された西田敏行さん初の自伝『役者人生、泣き笑い』をご存知でしょうか。

昭和22年(1947年)生まれの西田さんは、古希を迎える2016年にけがと病気で入院し、ほぼ4カ月間を病院で過ごしました。そのあいだ、50年に及ぶ役者人生を振り返り、自伝の執筆をはじめたといいます。最後の章題は「四ヶ月間の入院は神様がくれた『休暇』」。「前ばかり見て突っ走ってきた気がする」と綴る西田さんは、突然の入院にくよくよせず、役者として他人の人生ばかり演じてきた自身を見つめなおす機会としたのです。

病気や入院をきっかけに自伝を書いた人は少なくありません。著名人に関わらず、闘病記は数多く出版され、その中にはベストセラーになった本も数知れず。入院や闘病といった不自由の中で、あらためて人生の自由さを考えるこころが生まれるのかもしれません。

昨今は出版という形式にこだわらず、ブログなどで自叙伝を発表することもできるようになり、ますます自伝執筆のハードルは下がってきました。自分のために残すのでもいい、ひとりかふたりの身近な人がいつか読むためでもいい、自分のことを残しておきたい・・・。

今回は、入院を契機に執筆された作家たちの自叙伝を紹介しながら、自伝を書き残しておきたい人のための執筆のヒントをご紹介します。

おすすめの入院自叙伝1 太宰治『HUMAN LOST』

自伝を書きあぐねている人にまずお伝えしたいのは、人にとっていちばん書きやすい文章は「日記」の形式をとる、というポイントです。そのことを教えてくれるのが、太宰治の小説『HUMAN LOST』です。

昭和11年(1936年)、太宰治は薬物中毒のため、板橋区の東京武蔵野病院に1カ月入院しました。その1カ月間の記録というか、翌年の文芸誌「新潮」に掲載されたので、小説と言っていいでしょう。

内容は、パビナールという覚せい剤を1日に50本も打つほど深刻な薬物中毒に陥っていた太宰が、妻と師匠の井伏鱒二によって無理やり入院させられたことを恨み、身近な人への罵詈雑言を繰り返し、薬物の禁断症状で幻覚と妄想に苛まれ、医師や看護師に悪態をつき続ける、というものです。こんなあらすじを読むだけでうんざりする方もいるかもしれませんが、不思議なことに、これが面白いのです。

日記の形式を取る本作は、まず冒頭から衝撃的です。少し引用しましょう。

 

十三日。 なし。

 

十四日。 なし。

 

十五日。 かくまで深き、

 

十六日。 なし。

 

十七日。 なし。

 

十八日。

ものかいて扇ひき裂くなごり哉

ふたみにわかれ

 

十九日。

十月十三日より、板橋区のとある病院にいる。

来て、三日間、歯ぎしりして泣いてばかりいた。銅貨のふくしゅうだ。

 

のっけから日付と「なし」の連続です。さらに俳句も和歌も書きかけで終わっています。入院から1週間ほど経ってようやく文章らしきものが登場しますが、「銅貨のふくしゅう」って何でしょう。意味がわかりません。さらにこの直後の文章には放送禁止用語が頻発し、わめいたり、騒いだりしています。めちゃくちゃです。

それでもこの作品は「何を書いてもいい」という自由を教えてくれます。恨み言の連続で閻魔帳と見まがうほどの悪辣さに満ちていますが、そのいっぽう、ところどころに透き通るような文章と、思わず頷いてしまうような警句が出てくるので、読んでいて退屈しません。

「自伝を書くぞ」とかしこまって筆を執り、いきなりスラスラと書けるわけはありません。書けない日だってあるでしょう。自伝の書き方を謳う本には「自分史を整理して書く」とよく書かれていますが、太宰の作品を読むと、書けない日は「なし」でいいし、こころの整理がつかないまま、何かを書いてもいいことがわかります。

自分史の整理は無理でも、日記を書くくらいの気持ちで自伝に臨めば、自然と文章ができていきます。最近しきりに思い出すこと、思い出そうとしても思い出せないこと、忘れようとしても忘れられないことなど、ことばになるのを待っている出来事があなたのこころに積もっているはずです。まずは日記の形から、ことばを書き始めてみてはいかがでしょうか。

太宰治『HUMAN LOST』は青空文庫で無料で読めます。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/271_15084.html

 

おすすめの入院自叙伝2 ダースレイダー『NO拘束 ダースレイダー自伝』

元気な病人として見習いたい人No.1の人物が、ラッパーのダースレイダーさんです。

ダースレイダー @DARTHREIDER https://twitter.com/DARTHREIDER

ダースレイダーさんは、2010年6月のある日、クラブイベントに出演中に脳梗塞で倒れました。そのまま1か月半入院し、退院後も長い間リハビリの日々が続きました。左目の視力を失い、眼帯をするようになっても「カッコいい眼帯がない」と気づき、世界でも珍しい眼帯のブランドまで立ち上げました。とにかくエネルギッシュです。

この自伝本『NO拘束』は、先ほど紹介した太宰の本の真逆で、著者が病気を通じて気付いた「感動」の数々が余すところなく書かれています。歩行のリハビリをしながら人体のメカニズムに改めて感動したり、食べては吐くを繰り返す中、やっと初めて食べきれた病院食のカレーに感動したり、何十回も聞いていたローリング・ストーンズやビートルズの曲の良さに改めて気づいたり・・・。小さな目標をクリアしていくことで、病気への不安を解消していくヒントもたくさん詰まっています。

「パジャマ姿で弱っている『病人らしい姿』という同調圧力に抵抗する」ため、自らを「超ド派手な病人」と称して活動を続けるダースレイダーさん。この本を読むと、闘病を経た人の強さの謎の一端が垣間見えるような気がします。

自伝だからといって、生まれた日からすべてを書く必要はありません。その日のリハビリを終えたあと、ふと飲んだ水のおいしさや、好きな病院食など、小さな感動から書き始めればいいのです。健康な時は視界から流れていったはずの小さな出来事に気づくようになった病後のダースレイダーさんのまなざしは、きっと読む人に書くヒントを与えてくれるでしょう。

おすすめの執筆ツール

書くヒントがまとまったところで、執筆のツールを紹介しておきます。

ブログ

なんといってもブログがいちばん自伝を発表しやすい媒体でしょう。アメーバブログとか、ライブドアブログとか、ネットサービス上にはさまざまなブログがあります。ユーザー数ではアメーバがトップで(登録数2億4000万)、次いでFC2(2億3000万)、ライブドアブログ(8000万)と続きます。

どこのブログサイトも無料ですが、2019年12月に終了したYahoo!ブログのように、運営側の理由でサービスがいきなり終了することもあるので、ブログサイト選びには注意しましょう。

アフィリエイトプログラムを通じてブログ上からの収益化を目指すのでなければ、基本的にどのブログの形式でもいいでしょう。初心者にも自由に書ける印象があるのは、やはりアメーバとライブドアのブログでしょうか。これは好みで選んでいいと思います。

Twitter

Twitterで自伝なんか書けるのか、と思われそうですが、書けます。「#骨折」とか「#胃潰瘍」など、病名のハッシュタグをつけてつぶやけば、ユーザー間の横のつながりも生まれます。

Twitterでつらつらと自伝を140字ずつ投稿し、溜まって来たツイートをまとめる「Togetter」というサイトを利用すると、タイムラインを過去から遡って時系列にまとめることができます。

Google Drive

長文の執筆で一番ダメージが大きいのは、文書の保存前にパソコンがフリーズしたり、アプリケーションが強制終了したりした瞬間でしょう。似たような経験を味わい、どうして私がこんな目に、と涙を飲んだ方もおられるのではないでしょうか。

Googleのクラウドサービス「Google Drive」を使えば、Microsoft Wordに近い文書作成ツール「Googleドキュメント」で、文章を書くことができます。基本は常時接続で、文章を1文字書いた先から自動的に保存されていきます。筆者はこのサービスを利用して以来、文書消失というリスクが皆無になりました。

画像の保管もでき、ある程度の文章を書きためたところでブログに投稿するなど、いろいろ便利に使うことができるでしょう。

ペンとノート

なにもオンライン上でのみ自伝を執筆する必要はありません。ペンとノートがあれば自伝は書き始められます。文章になりにくいモヤモヤした感情も「ここ大事!」とか「このへんはあとで膨らませる」など、メモを余白に書き残しておけばOKです。

まとめ

自伝を書きたい人にとってヒントになりそうなことをまとめてみましたが、いかがでしたか?

自伝の書き方をまとめたハウツー本などが山ほど出版されています。ですが多くの場合「まず自分史をまとめよう」とか「客観的視点を持て」とか、たいそうご立派なことが書かれているだけで、筆者の本音としては「わかっちゃいるけどできっこない」ことばかりです。自伝など好きに書けばいいのです。まずは好き勝手に書いたあと、第2稿で編集しなおせばいいのです。

なにより「自伝を書こう」というエネルギーを大切にしてほしいと思います。自伝を書いてみようと思う人は、自伝を書き残したくなるくらい、すてきな人生だということです。

名著といわれる作品でも、素朴な書き出しから始まるものは珍しくありません。夏目漱石の『草枕』を思い出してみましょう。

「山路を登りながら、こう考えた」

――『草枕』 夏目漱石

まずは気軽に「こんなことを思った」から書き始めてみましょう。

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